大正8年設立、地下足袋を中心に多様なフットウェアや工業用品を製造する老舗メーカー丸五。NOKOGIRI-WINDOW toiletは工場従業員が利用するトイレとして、束の間の休息時に安らぎを与える空間となることを意図して計画された。

倉敷市茶屋町の本社工場には戦前に建てられた木造のこぎり屋根工場がいまも残る。
のこぎり屋根工場はイギリスで18世紀前半に生み出された後日本にもたらされたものとされ、照明が普及する以前に北側からの安定した採光を利用する為の技術として、繊維産業の工場で広く採用された。 同一の構造が反復し機能的な空間を構築する形式は、近代の合理主義を信頼する丸五創業時のSPIRITを体現する建築として貴重な遺産である。
こうした特徴的なかたちを引き継ぎ、新しい技術を用いながら歴史的な連続性を生む形象を考えた。

岡山県真庭市で製造されるCLTのマザーボード3m×8m、210mm厚の最大寸法と強度を生かし、のこぎり形状のハイサイド窓を構築。工場棟における北側採光から南に採光面を切り替えることで、あたたかな陽光で満たされる心地よい空間とした。
また下部構造は木造軸組とし、現時点での経済的なバランスと適材適所の構法を探った。

設備機器は天井面に設けず県産ヒノキCLTの質感が最大限に感じられるようにし、
素材の持つ優しさとかたちの力強さが重なり合った建築を目指した。 
終業時、ハイサイド窓から漏れる明かりが帰路につく従業員を優しく見送る。

CREDIT
建築主/株式会社丸五
設計・監理/竹下和宏建築設計事務所
施工/株式会社ミナモト建築工房
構造・規模/木造平屋建
延床面積/52.56㎡

COLLABORATOR
構造計画 銘建工業株式会社
照明計画 LIM LIGHTING DESIGN/吉村美子
サイン計画 NIKO/生駒真一郎