西川は江戸時代初期より県南への農業用水路として整備され、中心部においても岡山城を護る堀として城下の生活用水に利用される等、長らく暮らしに密着した場所であった。昭和40年代の経済成長期、暗渠化する案を退け水辺を生かしたまちを目指して緑道公園化されて以降も、都心のオアシスとしての役割を果たし、多様なまちづくりの担い手によりイベントが運営される等、賑わいの起点となっている。

この豊かな景観と環境共生の先駆としての場所性に繋がる、低層で余白の多いヒューマンスケールな開発の在り方を探った。

雨水循環による灌漑システムで緑化されるテラリウムの空間を中心に据え、両脇にテナントやオープンなテラスが配置される形式とした。片流れの木造屋根がこれらを包み緑道に対する構えをつくることで、緑あふれる景観と呼応し、ひとを迎え入れる建築となることを意図した。

片流れ屋根は南下がりの勾配とし、東に隣接する住居の既存庭園へ明るい環境を連続させる。緑道公園を都市のタテ軸として、テラリウムや南庭がヨコ軸となって緑を押し広げていくことで、美しい環境がより周辺に波及していくことを狙った。

循環型ランドスケープはソイルデザイン/四井真治氏の監修による。

テラリウムは貯留された雨水が巡る開放型水路や、葡萄による水平緑化、食材を育てる菜園など、「続く仕組み」としてのいのちの循環に触れられるパブリックスペースとして、都市に開かれ誰でも過ごすことができる寛容な場である。

円形の水盤から湧き出る雨水は、水路を巡りビオトープ、瓦チップバイオジオフィルターによる水質調整を経て屋上に汲み上げられ、菜園やテラスの緑化帯へ点滴灌漑される。

修景には前面の緑道で用いられている自然石や流水、雑木等の要素を継承することで、より一体感を生むものとなった。

その他、調理残渣のミミズコンポストによる堆肥化と菜園への利用、雨水を貯留・浸透させる雨庭、生物の棲み処となるバグズホテル等、様々な仕組みを取り入れた。ひとの営みにより環境が破壊されるのでなく、むしろ営みが持続することで周辺の生物多様性が高まり、場所が豊かになっていくという四井氏の方法論に建築の方向性は大きな示唆を受けた。

テナントには施設コンセプトに共感する4店舗が集まり、オーナーが運営するフリースペース及びルーフトップテラスを加えた6つのゾーンで構成される。施設計画時より交流、視察を重ね、体験を共有しながらプロジェクトを進めた。

テナント区画はそれぞれ平面形とテラスの取り付き方、天井高や断面形状が異なり、固有のキャラクターをもつスケルトンとして計画した。

VINES、AGNI、SOLAのデザインは弊社が担当。それぞれ「土」や「火」「緑」といった自然のエレメントをモチーフとして扱い、テラリウムに湧く「水」や躯体の「木」と共に、循環する根源的な要素で構築されながら居心地の良い空間となることを意図した。

「VINES」はナチュラルワインとカジュアルなフレンチが楽しめるビストロ。

賑わいを生むビッグテーブルを中心に、前面に広がる緑道と共に厨房やカウンターの背後3方に視線が抜け、移ろう光を感じながら食事を楽しめる。床壁に用いられた土やひのきの繊細な素材感と透明感のある構成で、控え目でありながらこの場所の魅力を最大限に引き出す空間となるようデザインした。

「AGNI」は薪火を使った料理を提供するフレンチレストラン。

薪窯にゆらぐ火を囲むかたちでゲストがロングテーブルを共有し、地元の素材を生かした料理やシェフとの会話が楽しめる。テラスの外に広がる緑道の景観と対峙する5.5mの無垢板カウンターや備前の耐火煉瓦による薪窯など、プリミティブな調理法と呼応するシンプルで力強い構成とした。また市中心部では珍しい戦災を免れた隣地の蔵を室内景観に取り入れている。

構造はひのき150角芯持ち製材を積層した「接着重ね材」による1方向ラーメン架構を主体とし、シンプルで内部の更新も容易な形式としながら、木フレームが印象的に緑道の景観を切り取ることを狙った。テナント内部のラーメン架構により負担の軽くなった中央テラリウムは、華奢なサブフレームによる木グリッド空間として、緑化ワイヤーやイベント時の仮設物の設置など、利用者の多様な場づくりの手掛かりとなる工夫をした。

接着重ね材は大規模な製造ラインを必要とせず、中小の製材所でも少額の設備投資で製作が可能な大断面部材である。細幅ラミナを積層させる集成材に比べて接着層が少ない為、より無垢の質感を感じさせ、活用が望まれるA材(芯持ち直材)利用や歩留まりの向上など林業川上への利益還元も期待できる。生産拠点が少なく、今回は真庭産ひのきを熊本の工場に輸送して製作したが、繊細で穏やかな木柄と相俟って、モノリシックな無垢板のような美しさを持つ木フレームが実現した。今後も地域内で生産が完結する岡山版接着重ね材の開発・普及を目指して可能性を探っていく。

構法についてはラーメン架構と直交する構面は在来軸組工法とし、住宅建築を担ってきた地域の工務店や大工が対応できる形式とすることで、地方都市における中小規模の都市木造のあり方として一つの解となることを目指した。

計画に当たっては施主・設計・施工・製材や木材流通で初期よりプロジェクトチームを結成。林業現場視察やヒアリング、調達スケジュールの管理、選木など林業川上と密にコミュニケーションを図りながら進めた。大断面部材による中スパンのラーメン構造、という汎用性があり都市で水平展開できる形式でありながら、伐採された山までトレーサビリティが可能な、森と都市をつなぐ建築である。

建築がつくる風景や持続する営みを通して、この場所から新たな視点と共感が生まれることを願っている。

CREDIT
建 築 主/有限会社ティーハウス
設計・監理/竹下和宏建築設計事務所
構 造 設 計 /木下洋介構造計画
ランドスケープ/ソイルデザイン 四井真治
施工/株式会社ミナモト建築工房
雨庭・造園施工/ストームウォータージャパン 稲谷順一
照明計画/lim lighting design 吉村美子
アートディレクション/edge graphics 秋岡寛子
構造・規模/木造 一部鉄骨造(階段部分) 地上3階建
延床面積/468.36㎡
撮 影/ナカサアンドパートナーズ 中道淳

令和7年度 木材利用推進コンクール 優良施設部門 内閣総理大臣賞
ウッドデザイン賞2025 奨励賞(審査委員長賞)
令和7年度 国土交通省 都市景観大賞 優秀賞(岡山市、ハレまち通り・下石井公園周辺地区まちづくり団体による共同受賞)

テナントデザイン・施工
VINES 監修/slowcave
    設計・監理/竹下和宏建築設計事務所
    施工/株式会社健楼工務店
    造作家具/kuusi design
    家具/meuble poste
鮨やなぎ屋 設計・施工/マイカム建築
AGNI 設計・監理/竹下和宏建築設計事務所
    施工/株式会社開拓舎
    造作家具/kuusi design
FIGO 設計・施工/株式会社PARKERS
AO  設計・監理/株式会社TTarchitects
    施工/株式会社SAKULABO
SOLA 設計・監理/ 竹下和宏建築設計事務所
    施工/株式会社ミナモト建築工房