岡山市中心部近郊、近年急速に宅地・商用化が進行するエリア。
平坦で地勢的特徴が少なく、風土を感じさせる民家や田園といった風景も徐々に失われつつある。こうした所謂郊外にありがちな街並みのなかで、建築をつくる拠り所となる存在をどのように見出していくか。

複数の世帯が集まって共有の中庭をつくることを起点として、各々の住まいと共に集合のあり方を探る、9世帯の集住PROJECTが始まった。

中庭は持ち分共有、一部非住戸を含む9世帯で囲われながら、路地を介して外部と接する。各住戸は中庭と隣地に面して塀等の造作をしないこと、中庭側より宅地内1.8mを植栽で繋げて境界を曖昧化すること、軒高・屋根勾配・壁面線の統一など、あらかじめ皆で取り決めを作り開発を開始。コンセプトに共感する住まい手を募り、区角割から中庭の自主施工、竣工後のメンテナンスまで住民が共に環境づくりを行う。快適な住環境への共感がベースとなり、緑のケアを起点にした緩やかなつながりが生まれている。

『平田の廻廊』はこうしてできた中庭を囲う一角に計画されたアトリエ付住居である。
中庭の強い中心性とバランスを保ちながら、宅地内のコミュニティと宅地外とのあいだに個の暮らしをどう位置づけるか、建築的方法を探った。

骨格として居室や半屋外空間、傾斜する庭園が連なりながら螺旋型に上昇していくシークエンスを考えた。螺旋の運動にはそれ自体の内へ向かう求心性と、外へ向かう遠心性が同居する。中庭とは別のもうひとつの中心をかたちづくりながら、所々で外部環境と接点を結び、他者と共有する余白を抱え込む。重心に寄り添いながらも自立する、そんな関係性を求めた。

室内においては生活の中で自然に外部への意識が生まれるよう、変化していく視点と開口部の関係を設定した。また、天窓や坪庭による垂直の軸が所々に重心をつくることで、さらに複数の中心が生まれることを意図した。

暮らしの主機能は2階であるが、すべての居室や水廻りから螺旋状のスラブと斜庭をつたって中庭に降りていくことができ、屋外と生活空間の連続性を生んでいる。

夜間は半屋外空間が照明による光だまりとなり、周辺に安らぎを与える。

中心と周縁、その関係性について、庭と建築が影響し合い変化を続ける場になれば良いと願っている。

CREDIT
宅地計画・デザインコード監修/佐野アトリエ 佐野宜夫
建築設計・監理/竹下和宏建築設計事務所
構造設計/倉敷構造設計室 木村誠司
照明設計/LIM LIGHTING DESIGN 吉村美子
施工/株式会社ミナモト建築工房
造作家具・キッチン・ソファ/KUUSI DESIGN 三島久幸
造園/IN THE FIELDS 関藤啓輔
撮影/しんめんもく 後藤健治